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第29話 征臣が笑わない理由

Auteur: 花柳響
last update Date de publication: 2026-07-12 06:00:59
「お姉様、ひどいです。私の大切なものを、そんなふうに」

 涙の膜が、もう目のふちに用意されている。

 会場の誰かが小さく息を吸った。莉々花の涙には、いつも人を少し慌てさせる力がある。泣かせた側を悪者にする、細い糸のような力。

 けれど征臣は、笑わなかった。

 慰める顔も、信じた顔もしない。テーブルの上に置かれた白いナプキンを一度だけ見て、それから莉々花の胸元へ視線を戻した。

「大切なら、隠す理由にはならない」

 莉々花の睫毛が揺れる。

「征臣様まで、私を疑うんですか」

「疑っているんじゃない。確かめている」

「同じことです。私だけ、いつも信じてもらえない」

 莉々花はそこで、ちらりと悠真を見た。慰めてほしいのではない。自分の涙に誰が最初に膝を折るのか、確かめる目だった。

 悠真は動かなかった。その一拍で、莉々花の目元に焦りが走る。

 征臣はリボンから目を離さなかった。莉々花が椅子の上で身を寄せる。

「……信じてくださいますよね」

 甘く伸ばした声が、最後だけ少し急いだ。

 私は膝の上の指をほどけなかった。

 征臣がすぐに否定してくれたら、胸の内側に刺さっ
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